日本財団 図書館


 

造記録・図面・模型といった技術史料を研究することによって得た知識は、彼らには縁がないということであった。たとえば、その時分の日本海地域調査で80歳台の船大工数人に弁才船について聞いても知らないと答えるのに対し、知っているという船大工(大体前者より一世代か二世代若い)の答えとなるとほとんど聞きかじりやいい加減な話で、全く問題にならないものであった。
もっともこれは、聞く方が何も知らなければ全面的に信用することになるわけで、民俗字関係の弁才船に関する記述のなかには、そうした例を間々見掛けることがある。ただし古老の話でも、工作面に関するものには傾聴すべき点が多く、そうした点は別として、こと弁才船や大名の関船・川御座船などの歴史的な和船に関する限り民俗学的な方法は、成り立たないといって過言ではない。
ところで、今回とり上げる模型とは、弁才船の研究史料のなかの重要な一つで、その多くは江戸時代の船主などが海上安全を祈願して、郷土や関係の深い社寺に奉納したものである。弁才船が圧倒的に多いのは、江戸海運の隆盛を反映しているわけであるが、これらの実物のない今日では船大工の描いた図面とならぶ貴重な造型的史料であって、筆者らが全国的に調査しているのは、それほど重視しているからにほかならない。
かといって、弁才船の模型ならば何でもいいというわけではない。研究史料となるような出来のよい正確な縮尺模型はむしろ少数で、大半は幕末期から明治期に奉納された、いわば既製品的な不正確なものである。たとえば讃岐の金毘羅宮には現在20点余りの弁才船の奉納模型が残っており読者諸賢のなかには、20年ほど前まで絵馬堂の天井に吊られているのをご覧になった方も多いと思うが、史料的価値つまり文化財的価値のある縮尺模型は3分の1しかない。が、これでも多い方なのだから、他は推して知るべしであろう。なお、金毘羅宮和船模型はすべて他の海土信仰関係の奉納物とともに、国の重要民俗史料に指定されている。が、これはあくまでも信仰上の指定であって、船の文化財的価値とは別である。そこで正確な縮尺模型とはどういうものかというと、縮尺は10分の1が主で、船体構造をはじめ全般的に本物同様に造ってあること、むろん船大工の手になるものであることは最低の条件である。しかし正確な縮尺模型だ

030-1.gif

1,600石積樽廻船 復元模型

縮尺:1/5所蔵:船の科学館

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION